女冥利 
2000.1.18

我が家の長女は1歳8ヶ月になったがまだ母乳を飲んでいる。「飲んでいる」というのは正しくないな、「飲む」という行為はなにか、こう、左手を腰にあててゴクッゴクッと喉を鳴らしながらすることのように聞こえるからな。彼女はズイ〜ッコン、ズイ〜ッコンと激しく吸引するのだ。あんなに強引に吸ったら父ちゃんのオッパイからだって「なにかしら」出てくるのではなかろうか?まぁこれは彼女のせいばかりでもないが。私が充分に供給できなくなっているからに他ならないのだから。体重そのものが減ったせいもあるだろうが、私の胸は相当に貧弱になってしまったのである。明らかに春樹が生まれる前よりも。春樹はそれに関して「かぁさん、もうチンチン生えてきた?」という質問を発してきた。父さんはオッパイが小さくてチンチンがある。母さんはチンチンがない代わりにオッパイが大きい。ゆえにっ!オッパイが小さくなった母さんにはチンチンが生えてくる!どうだ!何と論理的な展開ではないか!でもね春樹、残念ながら母さんにはこれから先何も生えてこないのだよ。もし、万が一「なにか」生えてきた場合は必ず見せるからね。

春樹の時は母乳が充分に出なくてずいぶん悩んだ。「子供は母乳で育てるのが一番」と誰もが口を揃えて言っていたから。それに異を唱えるつもりはない。でもともすれば母乳が出ない母親は本人の努力が足りない失格者のような話に発展してしまう傾向があって、今の私なら「あなた、それはちょっと違いますよ」と言えるのだけれど渦中にあったときは「私はダメな母親なんだろうか」とメソメソしたものだった。人工乳がなかった頃にだって「もらい乳」という習慣があったではないか。母乳が充分に供給できない母親はいつの世にもいたんだ。決して粉ミルクの開発が進んだ現代に生きる女性達の怠慢なんかではない。・・・まぁ確かに安易に人工乳に移行してしまう傾向はあるかも知れないけれど、それでもいいじゃないか!現代の女性達は、母親達は、昔にはなかった種類のストレスに晒されている。そんな中で子供と質の高い、密度の濃い時間を持とうと思ったら、紙おむつを使ったってたまにインスタントの離乳食を食べさせたっていいではないか!ただ、何にでも悪い面がある、ということさえしっかりと分かっていれば。肇が最近の子供がキレ易くなっているのは紙おむつの使用に原因の一端がある、というような、彼らしからぬことを言っていた。肇は「風が吹けば桶屋が儲かる」的な発言はしない人なのである。きっと何かで読んだか聞いたかしたに違いない。つまり布オムツの不快感を経験したことがないからだ、というのだ。私のオムツが濡れていて私が気持ちの悪い思いをしているのは私がオシッコをしたせいだ、でもこの些細な不快感よりは今私が直面している積み木遊びの方が重要なのだと、気持ち悪さを我慢するということを知らない。紙おむつは私が何回かオシッコをした後もサラサラ快適で、気持ちが悪くなる前に大抵お母さんが交換してくれるのだから。小さい不快感を我慢することを知らない子供(人)は、自分の意に添わない物事に対してどうしていいか分からずに爆発してしまうのだ、と。まぁこれはあまりにも短絡的な説であるとは思うが、紙おむつを使う人はそういう物の見方もあるということを知っておいて害にはなるまい。

話がだいぶ横道に逸れたが、10ヶ月間しか母乳が出なかった春樹の時と違って、今回花の場合は最初からかなり出ていたようだ。「ようだ」と言ったのは、それとは知らずに追加でどんどん彼女に粉ミルクを与えてしまっていたから。根拠はないのだけれど一人目より二人目の方が母乳は少なくなるような気がしていたし、確実に2年分年を取っているのだから私の肉体的な機能もその分低下しているだろうと。それで花が泣いている間中人工乳を与え続けてしまった。一ヶ月検診の時保健婦さんに太りすぎを指摘され、母乳で充分なんじゃないかと言われて初めて気が付いたような次第だ。保健婦さんの指示通り粉ミルクの代わりに白湯やカモミールティーを与えてみたけど飲まないので、授乳時間を工夫して人工乳の回数を減らしたりミルクを薄めたりするのが精一杯、結局完全母乳にはならなかった。それでも粉ミルクは1日1回、離乳食が始まってからは全く必要なくなった。どうしてこんなことが起こったのだろうか?出産後間もなく、私がまだ分娩台の上で会陰切開の縫合を待っている間にピンク色のネルのシーツにくるまれた花が連れてこられて、彼女は驚くほど強く私のオッパイを吸ったのだった。その時初乳は出ただろうか?分からないけれど、そういうことも今回母乳が充分出るようになった一因かも知れない。

そんな花の攻撃はかなりネチコイ。大阪あたりのおさわりバー(東西のおさわりバーに詳しいご貴兄は「ちょっと待った!」と言うかも知れないが、ただ何となく新宿よりは大阪のお姉ちゃんの方がプロフェッショナリズムの点で勝っている、つまり根性が入っているような気がしたまで)で鍛えられたホステスさんだって怒って帰ってしまうんではなかろうか。でも私が着替えていると向こうから「アッ!」なんて言いながらのっしのっしとやって来て、期待できらきらの目で私を見上げながら歌うように「オッパイ、オッパイ」と生唾を飲み込んでいる様子を見ると、自分がなんだかそのストリップ劇場でナンバーワンの踊り子さんになったような気分になってくる。自分のオッパイにこんなご贔屓が付いているなんて、これは女冥利に尽きると言うものですよ。