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アポロ13号
明日の晩テレビで“アポロ13”を放映する。“アポロ13”は隠岐にいた時ビデオで観た。と言うのも隠岐には映画館がなかったからだ。3年前の2月28日水曜日にビデオを借りて来て晩に観たのだが、何度も一時停止してトイレに行かなくてはならなかった。破水してしまったので、羊水のナプキンを交換する為に。
その日は良く晴れた寒い日だった。晩ご飯の支度をしながらも体に起こりつつある異変に気づいていた。夕方翻訳の依頼に来た友人に「今日辺り陣痛が来るかも知れない」と語った覚えがある。夕食後(献立は忘れてしまった)こたつに入って肇とビデオを観始めた。否、観始める前にバニラアイスクリーム・苺&ヨーグルト添えという豪華版デザートを食べたのだ。これは私がじゃんけんに勝ったので肇がブツブツ言いながらこたつから出て台所で作って来てくれた物だ。苺と言えばあなた、大変な贅沢ですよ。1パック800円なんていう日だってあったんですからね。この時は600円くらいだったから何日か前に買っておいたのだ。もったいなくてなかなか食べられずに、冷蔵庫の中に寝かせておいてあった。後から何度も「あぁ、あの時にあれを食べておいて本当に良かった」としみじみ思ったものだ。そうでなかったら全部誰かさんの胃袋の中に収まってしまっていたところなのだから。
ビデオを観ながらアイスクリームを食べた訳だが、食べ終わって暫くするとお腹が張って来た。丁度アポロ13号が飛び立つ頃だ。余談だが、妊娠中の定期検診の度に「お腹が張ったりしませんか?」と尋ねられて私は困った。「お腹が張る」っていったいどういう状態を指すのだろう?何度目かについに私は先生に聞いてみた。「それって子宮が収縮する感じの事ですか?」先生はとても困った顔をして「僕には経験がないんだけど、たぶんそういう事だと思います」そうか!男性の産婦人科医は想像で妊婦達を導いているのだ!人間の想像力ってすばらしいのだなぁとつくづく・・・話を元に戻すが、お腹の張りかたが強く長くなりだし、15分25分20分20分20分とバラバラだった間隔が一定になるに至って、私はそれが陣痛である事を確信した。そして破水した。それは人から聞いたり本で読んだりするような劇的なものではなく「・・・なんか破水したかも知んない」というような種類のものであった。それからはもう大忙し。何週間か前から念の為に当てておいたナプキンを、もうもう頻繁に取り替えなくてはならない。トイレに立つ度に肇に「ちょっと待っててね」と言ってビデオを一時停止し、戻って来てからまた観始める、をいったい何度繰り返した事だろう?肇は迷惑そうな顔もせずに待っていてくれた。彼は「破水したって何時間かは大丈夫だよ。陣痛も来てるんだし」と、13号が飛び立ってさぁいよいよこれからって時に「病院に行った方がいいんじゃないか」なんて野暮な事は言ったりしない(でも良い子のチビっ子は真似しないように。ちゃんと主治医に相談し、言いつけを守りましょう)。「これ観終わってから行こうね。その頃には12時も回っているだろうし」と。2週間前に大家さんのお嫁さんに赤ちゃんが生まれた。彼女はそれが3人目だったので早いもので、金曜の8時頃に産気付き、10時入院、12時13分出産だったそうな。それはもう、これ以上はない!ってくらい効率の悪い生みかたなのですよ、皆さん。これから妊娠出産予定のある方々の為に教えて差し上げましょう。金曜日の10時に入院したら、たとえ2時間だけでも金曜日の分の入院費が請求されます。そしてたとえ13分でも12時を過ぎてしまうと土曜深夜の出産として正規料金の50%増しの分娩費が請求されるのです。どうです!恐いでしょう。まぁこれは病院によっても違うかもしれませんけどね。その辺の事情をクリアにしてから出産に臨んだ方がいいことは間違いなし。私達はそういう事を聞き知っていたので、入院が12時前か後かを気にしたのである。
ビデオを観終わったのが11時過ぎ。それから病院にこれから入院する旨を伝え、入院グッズをそろえて家を後にした。これから起こる事に高揚する思い。足元に注意しながら石段を降りる。肇がエンジンを掛けて車内を暖め始めている。見ると彼も興奮の面持ち。見上げれば澄んだ空に半月。空気はきりりと冷たい。普段より大きい音でエンヤを聞きながら病院に向かう。車が暖まりきらない内に着いてしまった。途中何度も武者震い。病院の駐車場に車を停めて夜間通用口へ歩きながらもう一度頭上の月を見上げ「行って来ます」。
それから起こった事もとても面白かったのだが、それはまた別の機会に記す事にしよう。今回は「“アポロ13”と言えば」という事で書き始めたのだから。こうして生まれたのが春樹。肇が職権を利用して病院がお休みの時エコーを使ったものだが、私のお腹が冷たーくなるまで中身をジロ見した末に「チンチンはついてないっ!」と言ったのでこの子は花と名づけていたのに生まれて来たのは男の子だったのだ(今になって花という名は無駄にはならなかったから良かったが)。そんな訳で男児の名前は念頭になかった。春樹と命名したのは退院して更に何日か経ってから。それまでは皆が勝手な呼び方をしていた。例えば“アポロくん”とか。病院にお見舞いに来てくれたアメリカ人の友人は「僕はヘルムートという名前がいいと思うよ」と提案してくれたが・・・却下。肇が春樹という名を思い付いた頃、私がそうとは知らずに「名前の中に春という字を入れよう」と言ったのでこの名が有力候補に上ったのだ。私は私でパースでも“Hal”と発音が容易なように、と思っての提案だった。春樹、君の名前はこうしてついたのだよ。いい名前でしょう。それともアポロの方が良かったかな・・・
明日は中断することなしにこの映画を観よう。産気付く心配もないし。・・・ないよなぁ。
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