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●2002年4月22日
「兄妹の会話」
前回のスクールホリデーの間に日本から私の友人母娘がやってきた。滞在期間が短かったので一晩だけ泊まりがけで出掛けた。いつもそうしているように台所の付いたキャビン。カンガルーはいなかったけれど野ウサギが周囲を跳ね回っていて、子供達は小川にはまって靴をびしょ濡れにしながらも、大いに楽しんだようであった。
来客があったり出掛けたりしたときは興奮して就寝時間が遅くなるのが常だが、昼間走り回ったせいか子供達は割合早い時間に眠ってしまった。そのあとは大人の時間、昼食を取ったワイナリーで買ったワインを飲み、足りなくなって家から持ってきた安箱ワインまで空けて3時近くまで喋ったか? それでなくても暫く会っていなくて積もり積もった話もあるところを、ワインとろうそくの灯が私達を正直にさせた。「えっ!そうだったの?・・・知らなかった・・・」的な話もポンポン飛びだして、時間の経つのも忘れてしゃべりまくった。
大人達が何時に寝たかなんて子供達の知ったことではない。いつもの起床時間になれば目は覚めるのである。「父さん、父さん、お散歩に行こうよ」と言いだしたのは春樹。春樹はラウンジのソファベッドで肇と寝ていた。肇は憮然とした声で「春樹、7時まで寝かせてくれ」と言っている。そうこうしている内に寝室で私と一緒に寝ていた花も起きて父さん攻撃を始めた。「7時だ、7時!」と、半ば叫ぶようにして肇はこっちのベッドに逃げてきてしまった。
私のところから春樹のぼんやりした横顔が見える。朝日が彼のこちら側の頬に当たって、産毛まで見えるようだ。ソファの背越しに花の髪の毛も見え隠れしている。いつものように忙しく働いているのだろう。外では鳥の声がしている。
「ハッキ、あれ なぁに?」花は春樹の友達が呼ぶのを聞いて、春樹をHalkiと発音する。「る」ではなくて「L」と発音するので、聞きようによってはハッキともハーキとも聞こえる。
「クッカバラ」
「ん? クッカバラ? はなちゃん、クッカバラ だぁいすき。にいちゃんは?」
「・・・・・・」
「はなちゃん、クッカバラ だぁいすき。にいちゃんは?」
「好きだよ」
「はなちゃんね、クッカバラと ハムたろうが すき」
「・・・ 春樹はねぇ、ハム太郎とリボンちゃんがすき」
それまでベッドの中で笑いをこらえていた私は、ここまで聞いて我慢し切れずに起き上がってしまった。私はジーンズに着替え、子供達はパジャマの上にフリースの上着を着て外へ出た。予想に反してうさぎは一羽も見かけなかった。池の端のガゼボまで行って他愛もない話をした。いつものように春樹が投げかけてくる無秩序な質問に答えたり。春樹はこの時もやっぱり小川に足を取られて左半身をずぶ濡れにした。私に「笑うなぁ」と抗議しながら、自分でも可笑しさを我慢できない様子だった。
キャビンに戻って着替えさせたりしているうちにみんなが起き出して一日が始まった。
私は春樹と花の会話を盗み聞きするのが好きだ。大人の存在を意識せずに、花を気遣う春樹の優しさに触れるのが好きだ。そして兄ちゃんとちゃんと会話を保てるようになった花の成長も私を幸福にする。この兄と妹はこの先どんな会話を重ねて行くのだろう? 好きな人のうち明け話をするようになるのだろうか? 老いてゆく両親のことを相談し合ったりするのだろうか?
(女将)
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